ホロゴンについて


昔から広角レンズで撮る遠近感の誇張された独特の世界が好きだ。 以前は一眼レフに 20mm 程度のレンズを付けて楽しんでいたが、 ついにホロゴン 16mm を買って、アンダー20の世界(そんな世界あるのか) に踏み込んでしまった。このページではそのホロゴンを紹介しよう。

35ミリカメラでは 50mm 程度の焦点距離のレンズを標準レンズといい、 それより焦点距離の長いレンズを望遠、短いレンズを広角と呼ぶ。 普通の広角レンズは 24mm から 35mm くらいが多いが、 ここで紹介するホロゴンは焦点距離が 16mm だから、超広角というわけだ。

(ちなみに私は広角レンズが好きだが、好きなのは広角レンズだけじゃなくて 標準レンズも望遠レンズも好きなのである)


このレンズが焦点距離16mmという超広角レンズ、 Carl Zeiss Hologon T* 16mm F8 である。ほとんど半球形の大きな前玉が美しい。 (映り込んでいるのは事務所の蛍光燈だ。 クリックするとさらに大きな写真で見られるぞ)

京セラの CONTAX G シリーズカメラ用にドイツの名門カールツアイス社 が作ったレンズだ。

1960年代に「ホロゴンスーパーワイド」というカメラに 作り付けのレンズとしてデビューし、1970年代になってライカMシリーズ用にも 発売された Hologon 15mm F8 のマイナーチェンジ(焦点距離が1mm伸びて、 レンズが一部張り合わせになった)版である。

ライカM用のホロゴンは、100万円くらいするそうだが、これはそれより ずっと安価であり、おかげで私にも買うことができるのである。


最近のカールツァイス社のレンズは一眼レフ用も G シリーズ用も、 ほとんどが日本製(おかげで昔よりも安価になった)であるが、 このレンズはこの写真のように正真正銘のドイツ製だ。

これが有り難いことなのかどうかは、よく分からない。 個人的には国産化してさらに安価になったほうがうれしいのだが、 なにか日本では作れない事情があるんだろうか。


愛機 CONTAX G1 に取り付けたところだ。このようにカメラからほとんど 出っ張らないで非常にコンパクトだ。普段使う一眼レフから比べると夢のような 小ささである。

あまりにも薄いうえに画角が広いので、普通に持つと指が写ってしまう ことがあるので注意が必要だ。

実際にはアクセサリーシューに専用のファインダーを付けなければならない。 付けなくてもよいが、どこまで写るのかわからなくてとても不便だから、 つけたほうがいいだろう。CONTAX G シリーズカメラの内蔵ファインダーは、 28mm の画角までしか対応していないからだ。なぜこの写真にファインダーが 写っていないかというと、単に写真を撮るときに付け忘れただけだ。他意はない。

さらに余談を続けると、CONTAX G シリーズについては、 このページが最高におもしろいぞ。ぜひ見ていただきたい。

ホロゴンは G シリーズ用レンズの中で唯一オートフォーカスに 対応していないので、フォーカスは手で合わせなければならない。 とは言っても心配することはない。このような超広角(しかも絞りが暗い)レンズ ではピントの合う範囲が極めて広いので、フォーカスはだいたい合っていれば いいのである。たとえばフォーカスを無限遠に合わせておけば、1.5m より先にあるものにはほぼピントが合うので、普通に風景とか撮る分には無限遠に したままで十分だ。(現に昔のホロゴンスーパーワイドにはフォーカスの 調節機構がなかったそうである)

オートフォーカスが効かないため、ある意味でホロゴンはスナップ写真に最適 なのだ。つまりシャッターボタンを押せば(フォーカスが合うのを待たずに) すぐに写真が撮れるわけである。(G1 ではフォーカスダイヤルを AF からはずして おかなければならない。G2 では AF のままでもいいようだ。)

この利点を生かすには本当はシャッタータイムラグの少ない G2 のほうが よいと思う。私は残念ながら G2 を持っていないので、G1 に付けているのである。 驚いたことに、オートフォーカスが作動しないときでも G2 は G1 よりもタイムラグが 短いのである。というより G1 のタイムラグが長すぎるのだ。

G2 といえば最近ブラックボディーが限定発売されたが、ブラックボディーは ホロゴンに似合うだろうなあと思う。だけど私は基本的に限定発売というような 商売のやりかたは嫌いなので、買わないのだ。(本当はホロゴン買ってお金がない から買えないだけだが)



このホロゴンというレンズ、実に個性的なレンズだ。

このレンズ構成図を見るとわかるように、非常に構成枚数が少ない。 現在のホロゴンは5枚のレンズを、2枚、2枚、1枚に張り合わせて作られている (こういうのを3群5枚というのだ)が、オリジナルの 15mm ホロゴンはただの 3枚玉だったらしい。 (現在のホロゴンが張り合わせになっているのは製造上の理由だそうである)

このような(曲率の大きな面が多いので製造は大変だろうが)単純な構成の レンズで、ちゃんとシャープな写真が撮れるのはとても驚異的である。

構成枚数が少ないおかげで、このレンズは非常に逆光に強い。 作例写真の中に、視野の中に太陽を入れて しまった極端な逆光で撮った写真があるが、このような状況でもいやなゴーストや フレアがあまり出ないのがこのレンズの特長である。

またレンズ構成が対称に近いので、ほとんど歪曲がない。数値的には 0.1% をはるかに下回る。(比較的優秀な一眼レフ用レンズで 1% 程度で、通常 2% 程度 以下ならば問題ないと言われるから、これは驚異的な数字だ)

ちなみに歪曲というのは直線を写したのに直線にならないで、曲がって写ってしまう現象だ。ホロゴンなら巨大なビルをパースを付けて撮ってもちゃんとビルの線は まっすぐに写るわけだ。

個性的なのはレンズの構成だけではない。なんと驚いたことに、このレンズは 絞りというものがないのである。(正確には絞りを変えられないのだ)

このため、光量を調節するにはシャッター速度を調節する (または後述のグラデーションフィルターを使う)しかないのである。 ただでさえ、 F8 ととても暗いレンズである上に絞りが調節できないため、 ホロゴンを使うときはその日の光量(天気)に合わせてフィルムを選択しなければ ならない。たとえば天気の悪い日に ISO 100 以下のフィルムを入れていたりすると、 悲惨だ。

ホロゴンのもうひとつの「個性」は、その周辺減光の大きさだ。 周辺減光というのは、フレームの中心から周辺へ向かって光量が減少する ことで、まあどんな広角レンズでもある程度はある(一眼レフ用の広角レンズや、 G シリーズ用でもビオゴンなどは絞りを絞ることによってかなり改善される) ものだが、ホロゴンではこれが極端なのだ。

レンズ付属のデータによると、周辺部の光量は中心部の実に4分の1に 落ちてしまうそうだ。つまり、フレームの中心は F8 だが、周辺部は F16 に なってしまうのである。基本的にホロゴンの上手い使い方は、この周辺減光 を生かして、中心部の被写体を浮き上がらせるような撮りかただろう (言うのは簡単だが実際には難しい)し、被写体によってはあまり目立たないことも 多いのだが、うっかり青空なんか撮ったりすると悲惨なことになってしまう。

これを解消するために、ホロゴンにはグラデーションフィルターという アクセサリーが付属する。これはレンズの前に付けて中心付近の光を減光して、 (周辺へいくほど透明になっているのだ)光の量を均一にするという、なかなか 力技のフィルターだ。

もちろん、レンズの明るさはレンズ周辺部と同じ f16 相当になってしまうが、 とりあえず周辺減光は抑制されるのだ。


この写真がグラデーションフィルターを付けないで撮ったもの。


こちらがグラデーションフィルターを付けて撮ったものだ。


この青空のようにあかるさが均一な被写体では周辺減光がとても目立って しまうので、グラデーションフィルターが効果を発揮するのである。


上記のように、ホロゴンも万能ではない。レンズの暗さは用途によっては 致命的だし、周辺減光を避けようとグラデーションフィルターを使うと さらに暗くなってしまう。

また、付属のファインダーは眼鏡をかけている人間にとってはとても使いにくい。 目をぐるぐる回さないと、フレームの端まで見えないのである。また、フレームの端 がぼやっとしていて、どこまで写るのかはっきりしないのも困りものだ。

どうせ一眼レフのようにファインダーでピントを合わせる必要がないのだから、 もっと思い切って視野倍率を下げた、見やすいファインダーを別売りでよいから 出していただきたいものである。

その点、一眼レフ用の超広角レンズならば完全にパララックスもなく正確に フレーム内に圧縮された画像が確認できるので、構図を確認しやすい。たとえば、 シグマの 14mm F3.5 は5万円程度で買えるレンズだが、(この手の安価なレンズ としては)歪曲もよく補正されていて、画角もホロゴンより広いし、超広角入門用 としてはお勧めできる。(ただしフレアが非常に大きいので、逆光では使えない)

このあたりだと Nikkor や Distagon の 15mm F3.5 も、どの程度のものか 興味がある。(が、当分買えないだろう。特に Distagon は70万円もするので、 一生買えないと思われる。)

[Update 1999.3.6] コシナからホロゴンに非常に似た スペックの Super Wide-Heliar 15mm F4.5 Aspherical がライカスクリューマ ウントで発売された。さっそく購入してテストしたところ非常に良好であり、 まさにホロゴンキラーと呼べるレンズに仕上がっていることがわかった。近日 中にレポートを掲載する予定。


以上ホロゴンについて述べてきたが、これで撮った写真は こちらを見ていただきたい。


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